連星系

太陽と惑星や、連星などのように、2つの天体が互いに重力的に相互作用していれば、その軌道から質量を直接的に求めることができます。

それぞれ質量 $M_1$, $M_2$ をもつ二つの天体の軌道の長軸半径 $a$ と周期 $T$ との関係は以下のようになります (ケプラーの第3法則) 。

\begin{equation} a^3 = (G/4\pi^2)\ T^2\ (M_1 + M_2) \label{eq:k3} \end{equation}

ここで、$G = 6.670 \times 10^{-11}\ \rm{N\ m^{2}\ kg^{-2}}$ は重力定数です。 観測から $a$ と $T$ が決定できれば、合計質量 $M_1 + M_2$ を算出できます。

銀河面 (天の川) の星の$55\%$程度は2重星もしくは3重星なので、この手法で計測できる候補を見つけるのは容易に思えます。 しかしながら、太陽近傍の多くの星のうち、高い精度で質量を計測できているのは数百個にすぎません。 その原因は、多くの連星系の軌道面が視線方向に対して傾いており、その傾きを計測することが困難であることに起因しています。

質量を高い精度で計測できるのは次の二つの場合に限られます。

実視連星

実視連星とは、地球の近傍にある、二つの星が空間的に分解できるほどの間隔をもつ連星のことです。 一般にそれぞれの星の物理的距離が離れており、回転周期は数十年から数百年と長い傾向にあります。 長期間に渡り星の位置を計測し、軌道を決定できれば、星の質量を算出できます。

地球から観測できるのは、天球面に投影された見た目の軌道になります。 地球から天体への視線方向に対して軌道面が傾いている場合、真の軌道を求めるためにはその傾きを補正する必要がありますが、その過程で多くの誤差が発生します。 軌道面の傾きを精度良く補正できた場合、天体までの距離が分かれば、\eqref{eq:k3}から二つの星の質量の合計を直接的に求めることができます。

個々の星の質量 $M_1$ と $M_2$ の比は、連星の重心からの距離 $R_1$, $R_2$ と以下の関係にあります。

\begin{equation} M_1 / M_2 = R_2 / R_1 \end{equation}

連星の軌道を精度良く観測できれば、$M_1$, $M_2$の合計および比を決定でき、個々の星の質量を導出することができます。

しかしながら、実視連星で質量が求められているのは数天体にすぎません。 回転周期が長いため軌道面の傾きや半径を十分な精度できるほどの観測ができなかったり、天体までの距離が未知であるなどして、多くの実視連星の質量は決定できていません。

食連星 (食変光星)

実際には、ほとんどの星の質量は、食連星の観測によって計測されています。

食連星は測光連星の一種で、光度が定期的に変化する変光星です。 見た目は一つの星として観測されますが実は連星系を成しており、互いの星が重なり合う食のタイミングで光度が減少して変光している天体です。 食が起きているということから、軌道面が視線方向とほぼ一致しているということが保証されています。 また、その回転周期は変光周期と一致します。 残るは軌道の長軸半径ですが、空間的に2つの星を分解できないため、測光観測だけで測ることはできません。 食連星の長軸半径の計測には、分光(スペクトル)観測が必要になります。

近接連星を成す星の明るさの差が1等級以内の場合、スペクトルは両方の星の重ね合わせになります。 ドップラー効果によって、視線方向の速度 $v$ の天体から観測される輝線の波長と、静止している場合の波長 $\lambda$ からのズレ $\Delta \lambda$ は以下のように表されます。

\begin{equation} \Delta \lambda = (v/c) \lambda \end{equation}

ここで、$c$ は光速 ($2.9979 \times 10^8\ \rm{m\ s^{-1}}$)です。 食の場合を除いて、連星の一方の星は地球に近づき、他方は遠ざかっています。 そのため、観測されるスペクトルは、星の軌道に応じて波長の異なる2つの輝線の重ね合わせになります。 連星の起動が円に近ければ、軌道半径 $a$ は、2つの星の相対速度の最大値 $v_{max}$ と以下の関係があります。

\begin{equation} a = \Delta v_{max} T / 2\pi \end{equation}

よって \eqref{eq:k3}より、連星系全体の質量を導き出せます。

個々の質量については、それぞれの視線速度の最大値 $\Delta v_{1max}$, $\Delta v_{2max}$ との関係、

\begin{equation} M_1 / M_2 = \left|\Delta v_{2max}\right| / \left|\Delta v_{1max}\right| \end{equation}

から導出することができます。

理論的には上記の方法で星の質量を推定できるのですが、実際には、わずかに残る軌道面の傾きや円軌道からのズレなどの影響、片方の星のスペクトルしか観測できない場合があるなど様々な困難があり、推定精度が下がります。

脈動星

セファイド型変光星のような脈動星では、線形脈動理論 (linear pulsation theory) を用いて、ケプラーの法則とは独立した方法で質量を推定することができます。 それによると、星の質量 $M_p$ は、脈動の周期 $P$、光度 $L$、表面温度 $T$ と以下の関係にあることがわかります。

\begin{equation} M_p = 3 \times 10^{17} ( L^{5} / P^{6} T^{21} )^{1/4} \end{equation}

ここで、$M_p$ の単位は太陽質量、$L$ の単位は太陽光度、$P$ の単位は1日になります。

観測結果

観測されている星の質量は、0.01から100太陽質量 ($10^{28} - 10^{32} \rm{kg}$)で、太陽より小さな質量の星がほとんどです。 太陽の半分以上の質量の星の数は $M^{-2.35}$ に、それより小さな星の数は $M^{-1.35}$ に比例し、平均質量は $0.35 M_{sun}\ \rm{(太陽質量)}$ です。

見上げる星空は太陽より明るい星で満たされているため、観測される星の質量の平均値が太陽よりずっと小さいことは意外に思えます。 しかしながら、星の質量分布は、地球から見て一定の明るさ以上の星に対してではなく、同じ領域の星について計測されるべきものです。 大質量の星は光度が大きいため遠方のものまで明るく見えており、逆に小さな星は近傍のものしか観測できません。 地球から一定距離の中の星に限って質量分布を求めると、上記のように、太陽より小さな星の方が優勢となるのです。

参考

  • Kitchen C R (1987), ‘Stars, Nebulae and the Interstellar Medium’, Bristol: Adam Hilger

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